徒然の書

思い付くままを徒然に

弓削の道鏡 その四最終

 
 
清磨が持ち帰った結果から見ると、八幡神が神託を変更した結果となるが、果たして本当に神託が変更されたのだろうか、清麻呂の報告を確認した事実はない。
現代の様な通信手段が発達していない、時代の使者の返答に疑惑があったとしても、おいそれとは確認できなかったであろう。
清麻呂は天統は天皇の血筋の欠片が必要であると思っていれば、皇族の血筋でない道鏡天皇にする報告をするわけがない。
藤原一族にしても、吉備真備にしても、道鏡が法王である限りは認めるとしても天皇の位に付くことには反対であったろう。
清麻呂が満ち帰った宇佐八幡神の神託は、宇佐八幡が先の神託を変更して出したものではない。
宇佐八幡が、神託を簡単に変えるとは思われない。
八幡神が発した、神託を確認のたびに変更していた、では神託の信用が地に落ちてい仕舞う。
藤原に示唆されたか、己自身の考え方であったかわわからないが、清麻呂が付く繰り上げたものを神託として報告した。
後世に於いて、道鏡を悪人とする考え方からすれば、道鏡天皇即位を阻止した、忠臣とされたのとはまったく反対の逆臣であったと言わざるを得ない。
天皇に対する最重要な報告に、信頼を裏切り、天皇の側近の姉と共謀して、虚偽を申し立てたのであってみれば、死に値する行為である。
天皇に確認を命じられたことを天皇位に関する己の考え方に添った結果を報告すること自体、逆賊ともいえる行いであったろう。
天皇の己に対する信頼を裏切った行為はまさに不忠の臣、死を給わっても文句は言えまい。
結果道鏡天皇即位を止めたことが正しかったとしても、天皇の信頼を裏切り虚偽の報告を為した事の不忠とは別個の問題である。
道鏡天皇即位を防いだことで、後に忠臣視されているが、人間のものの見方は視点の相違でどうにでも変化する。
当然和気清麻呂姉弟にも当然藤原の策略が入っていたと考える事も当然あり得る。
天皇を己の思うままに操り、己の栄華を求める藤原の不忠は鎌足以来延々と続いている。
清麻呂の信念が皇位は血の繋がりが必要とするものであっても、それをさらに強固にしたのは藤原一族が関わったことは十分に考えられる。
己が創り出した神託・・・・
天の日継は必ず帝の氏を継がしめむ。無道の人は宜しく早く掃い除くべし
・・・という神託を宇佐八幡が下したとして報告した。
 
そして正反対の神託を下して国政を大混乱させた結果となった宇佐神宮と神官たちには何のお咎めも無く、女帝の希望通りの神託を持ち帰らなかった清麻呂と姉の法均だけが流罪になったという事実からみて、陰で糸を引いていたのは藤原であることは見透かされていたのであろう。
藤原百川が大隈に流罪となった清麻呂に、二十戸の封戸を贈り生活を支えたことから鑑みても、当然の事として浮かび上がってくる。
この藤原と言う一族、一つの頭を潰しても、朝廷に巣食う鼠賊は何処からか湧いて出てくる。
藤原と言う渡来人が滅亡した半島の己が国を日本で再生させるには並みの薄汚さ、陰険な策略を用いるだけでは達成など及びもつかないだろう。
 
この薄汚い鼠賊、藤原百川の周辺から女帝と道鏡にまつわる醜聞が流布されていく。
脚色された話として一般庶民にまで浸透してゆき道鏡事件の裏にあった権力闘争の生臭い諸事情は闇に葬られてしまう。
日本書紀に続けて書かれた国史続日本紀称徳天皇宝亀元年二月以来、由義の宮に行幸した時から病にかかり、8月4日、西宮で崩御と記しているが、女帝の死因については何も書かれてはいない。
百川自身が病の床に就いていた女帝の傍に居り、病状の一部始終と治療の方法について、全て知り得る立場にあったとすれば、一服盛った可能性は十分に考えられる。
天皇が逝くと己の終焉だと道鏡は早い時期から覚悟していたから法王と言うものには何の未練も無かったろう。
配流先では心静かに法均尼の菩提を弔っていたであろう。
二年後に天皇の後を追うように逝った。
寵臣は主の死と共に、破滅の道を歩むことになるのはこの時代に限らず、江戸の時代でも寵臣と言われて者たちは没落していく。
 
道鏡天皇に据え、自分は皇后にと言う、称徳の儚い夢も周囲の圧力に屈したとはいえ、仲麻呂に翻弄された以後、道鏡との蜜月は短い間ではあっても、充実した人生を楽しんだことであろう。
道鏡が左遷された下野の国に孝謙天皇神社があって、ここを道鏡の死後孝謙天皇が訪れたと言われる由来を持っているという。
だが、道鏡が死んだのは孝謙の死より後であることは殆ど疑いのないところであろう。
天皇の在世中に道鏡が左遷されるということは殆ど考えられない。
寵臣が排除されるのは主の死後の事であり、これは以後の歴史にも数多く表れている。
 
 
黒岩重吾著    弓削道鏡を基に続日本記を参照。





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